リロケーションとは
転勤などの理由で一時的に長期留守にする自宅を、期間限定で賃貸に出すことを「リロケーション」と言います。リロケーション会社に賃貸借契約や入居者対応などの管理を委託することで、手間なく家賃収入が得られる画期的な空家活用法です。
海外赴任が決まった際、日本の持ち家をどう扱うかは大きな決断です。主な手段としては、「売却してまとまった資金を得る」方法と、「手放さずにリロケーション(賃貸)に出して家賃収入を得る」方法の2つが挙げられます。売却を選ぶ場合にはマイホーム売却時の大きな節税策である「3000万円特別控除」をどう活かせるかが重要となり、リロケーションを選ぶ場合でも、将来的な売却の可能性を見据えた税務上の知識が欠かせません。本記事では、売却とリロケーションという2つの選択肢を軸に、3000万円特別控除の基本や賃貸後の適用期限、海外滞在中(非居住者)の売却注意点、海外の自宅売却時の税金まで詳しく解説します。
海外転勤にあたって持ち家をどうするか考える際、売却して現金化するだけでなく、リロケーション(賃貸)を活用して資産を維持し続けることも有力な選択肢です。ただし、リロケーションを選んだとしても、将来的に売却へシフトする可能性は十分に考えられます。売却という手段をとる際に強力な節税効果を持つ「3,000万円特別控除」と、リロケーションという手段がどのように関わってくるのか、制度の基本から整理していきましょう。
「3,000万円特別控除」とは、マイホーム(居住用財産)を売却した際に、譲渡所得(売却益)から最高3,000万円までを差し引くことができる特例です。赴任を機に家を売却する手段を選ぶ場合、この特例を活用することで税負担を大幅に抑えられます。対象となるマイホームには、一戸建てだけでなく居住用のマンションも含まれます。適用を受けるための基本要件は、「自分が住んでいた家屋とその敷地を売却すること」と、「売却した年の前々年および前年に、この特例や他の特定の特例を受けていないこと」の2点です。居住していた持ち家を直接売却するケースであれば、基本的に要件を満たしやすくなっています。
一方、「家を手放したくない」「帰国後にまた住むかもしれない」と考え、リロケーション(賃貸)という手段を選んだ場合でも、3,000万円特別控除の選択肢が消えるわけではありません。自身が住まなくなった後でも、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日(3年目の年末)までに売却すれば、原則としてこの特例を受けられる可能性があります。つまり、まずはリロケーションで家を有効活用しつつ、状況の変化に応じて一定の期限内であれば特例を使った売却へ柔軟に切り替えることも可能です。
ただし、リロケーションを長く継続する場合は注意が必要です。海外赴任が長期化したり、帰国後に別の地域への再転勤が決まったりして賃貸期間が延び、売却時期が「4年目以降」にずれ込んでしまうと、原則として3,000万円特別控除は適用できなくなります。特例が使えない場合、売却益には通常の税率で課税されるため、将来的な売却時の税負担は大きく跳ね上がります。そのため、当初から売却して控除を活用するのか、リロケーションで長期運用するのか、あるいは3年目の年末までに売却判断を下すのか、それぞれの手段のメリット・デメリットを把握しておくことが重要です。
海外赴任中は、日本の税制上「非居住者」として扱われます。最初から売却する場合でも、リロケーション後に売却へ切り替える場合でも、非居住者の立場で日本の不動産を売却する際には国内居住者とは異なる手続きが求められます。ここでは押さえておくべき3つのポイントを解説します。
海外転勤により「非居住者」となっている期間中に売却手続きを進めることになっても、期限内であれば3,000万円特別控除をあきらめる必要はありません。前述の「住まなくなった日以後3年目の年末まで」という要件を満たしている限り、所有者が非居住者であることだけを理由に対象外とされることはないため、売却という手段を選んだ際もしっかりと控除のメリットを享受できます。
非居住者が日本の不動産を売却する場合、原則として買主が売却代金から10.21%を源泉徴収して税務署に納付するルールがあります。この源泉徴収の対象となる取引の場合、売主の手元に支払われる金額は一時的に10.21%差し引かれた状態となります。ただし、例外として「買主が個人であること」「買主が自己またはその親族の居住用として購入すること」「売却代金が1億円以下であること」という3つの要件をすべて満たす場合は源泉徴収が不要となり、売却代金の満額が支払われます。源泉徴収された税額は翌年の確定申告で精算されますが、源泉徴収の対象となるケースでは売却直後の手元資金が一時的に減少するため、資金計画を立てる際にはあらかじめ考慮しておく必要があります。
売却によって利益が出て確定申告が必要になる場合、海外在住の非居住者本人が日本の税務手続きをすべて直接行うのは容易ではありません。そのため、申告書の提出や税金の納付、還付金の受け取りを代行してもらう「納税管理人」を事前に選任しておく必要があります。日本にいる親族や、税理士などの専門家に依頼しておくことで、海外からでもスムーズに手続きを進めることが可能です。
持ち家の扱いとしては、日本の自宅だけでなく、赴任先の海外で自宅を購入し、帰国時などに売却するという手段をとるケースもあります。この場合における日本の税制の適用関係も確認しておきましょう。
「居住用財産の3,000万円特別控除」は、対象となる不動産の所在地を日本国内に限定していません。そのため、居住実態などの所定の条件を満たしていれば、海外で購入した自宅を売却した場合でも、日本での確定申告においてこの控除を適用できる可能性があります。
ただし、海外の自宅売却で使える特例には制限があります。たとえば、「軽減税率の特例」や「特定の居住用財産の買換え特例」などは、不動産が日本国内にあることが適用の前提となっています。そのため、海外物件の売却においては、3,000万円特別控除以外の優遇措置は適用できない点に留意してください。
海外の不動産を売却する際は、日本の税務だけでなく現地の法律に基づく手続きが必要となります。また、現地と日本の双方で課税される可能性があり、その場合は「外国税額控除」を利用して二重課税を調整する手続きを行わなければなりません。現地での居住事実を証明する書類の収集など特有の手間も生じるため、事前の準備が重要になります。
海外赴任に伴う持ち家の対応には、「売却して3,000万円特別控除を活用する」手段と、「リロケーション(賃貸)に出して保有・運用を続ける」手段という、それぞれにメリットがある選択肢が存在します。リロケーションを選んだ場合でも、「3年目の年末まで」であれば特例を利用した売却の選択肢を残しておくことが可能です。しかし、賃貸期間が長期化して4年目以降になると控除が使えなくなるため、どちらの手段がご自身のライフプランや将来設計に適しているかを総合的に見極めることが大切です。非居住者の源泉徴収や海外不動産の税務など複雑な点も多いため、判断に迷う場合は国税庁の公式情報を確認したうえで、早めに税理士などの専門家に相談することをおすすめします。